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ソーシャルワーカーに知ってほしい 理論とアプローチのエッセンス

第6回 エンパワメント8つの力(2)

 前回に続き、後半の4つの力を取り上げたい。

【著者】

川村 隆彦(かわむら たかひこ)

「エンパワメント」や「ナラティブ」等、対人支援に関わる専門職を強めるテーマで、約30年、全国で講演、研修を行ってきた。
人生の困難さに対処する方法をYouTubeインスタグラムで発信中。

目標

 人は目標をもち、そこに意識を向けることで、自らの内にある力を集め、達成へのエネルギーをつくり出す。逆に、目標をもてない場合、向かうべき方向がわからなくなり、もっている力は失われる。
 あなたには、目標をもてた、あるいはもてなかった、それぞれの経験があるだろう。そのことを思い出してほしい。
 「目指す高校に合格する!」という目標を掲げ、子どもたちと一緒に机を並べ、日々、勉強したことを思い出す。来る日も来る日も問題を解き続けることに集中し、力を出せたのは、目標をもっていたからだと言える。
 あなたがどのような年齢にあっても、目標は人生を前に進めるための力を与えてくれる。もしあなたが今「パワーレスだ」と感じているならば、「目標をもてているだろうか?」と、問いかけてみてほしい
 個人の目標に加え、チームとして、誰かのために貢献できる目標があるなら、仲間と一致団結して協働する原動力が生まれ、達成できたときの喜びも大きい。目標設定は「体力をつける!」といった抽象的なことではなく、「1日1時間歩く」など、具体的、かつ一定期間、努力すれば達成できるものを選ぶと評価しやすい。

達成感

 目標を達成したとき、人は自己肯定感や有用感、自分が成長できたという満足感を覚える。一人だけではなく、仲間と一緒に達成する経験は、さらに大きな喜びと力をもたらす。目標や達成感は、勉強や仕事、スポーツなどに限らない。どの分野であれ、目標に向けて努力を傾け、達成できたときの気持ちは同じだ。
 妻には重度の呼吸器疾患があったため、酸素ボンベを引きずりながら、ほんの少ししか歩くことができなかった。私たちは、よく池の周りを一緒に歩く練習をした。私たちの目標は「5メートル、休まずに歩く」など、小さなものだった。しかし、それを達成できたときの喜びは、計り難いほど大きなものだった。
 目標に向かって努力し、達成できたときの喜びを、あなたも覚えているだろう。達成への道のりが困難であればあるほど、たどり着いたときに得られる力は大きかったはずだ。そのときほど、自分を褒めてあげたいと感じた瞬間はなかったことだろう。

肯定的なコトバ

 「コトバ」には、言語、非言語の両方の意味、そして肯定、否定、両方の力が含まれる。私たちは「コトバ」によって、人を励まし、助け、自信を与え、心を開き、癒すこともできれば、ナイフのように傷つけることもできる。
 肯定的なコトバをもたらすことは、根拠なく褒めることとは違う。相手が努力していること、その結果に対して、肯定的な見方から、正確なフィードバックを伝えることである。嘘やお世辞、心ないうわべだけのコトバは、相手に伝わらないばかりか、かえって傷つけることになる。
 10個のうち5個達成できたとき、5個の失敗を見つめるのか、それとも5個の成功を正しく評価するのか、これが私たちの選択であることを覚えておこう。

 授業で「勇気の箱」を見せながら「1000円で買ったけど、中に何が入っていると思う?」と尋ねたことがある。疑いと好奇心に満ちた学生たちは、さまざまに考えはじめた。しばらく時間を取ったあと「実は、ある言葉が書かれてあったけど……それは、どんな言葉だと思う?」と問いかけてみた。すると彼らから、勇気が出そうなよい言葉をたくさん聞くことができた。
 彼らが教えてくれた言葉を集めてみると、ある一つの言葉だけ断トツで多かった。そこから彼らが、どんな言葉によって力づけられるのかがよくわかった。
(正解はこちらhttps://www.instagram.com/p/DEMqzkkPPgm/?img_index=1

肯定的なイメージ

 肯定的なコトバは、肯定的な自己イメージと結びつき、否定的なコトバは、否定的な自己イメージと結びついている。経験した出来事とコトバが結びつくとき、強力な自己イメージが完成する。だから人々の小さな達成に対して、肯定的なコトバでフィードバックするなら、その経験はすばらしい記憶として脳に刻まれ、肯定的な自己イメージとして、人生を支える土台となる。
 逆上がりが苦手な女の子がいた。クラスで彼女だけができなかった。放課後に残って何度も練習し、先生も隣で助けてくれた。一生懸命に努力したことで、うまれてはじめて逆上がりができた。
 その瞬間、先生は言った。「すごいじゃないか! 覚えておくんだよ……君は今日、世界で一番すばらしい出来事を達成したんだ!」
 この言葉が肯定的なイメージとして脳に刻まれた。

 大人になった彼女は、ある日、小学校の脇を通ったとき、鉄棒を目にした。その瞬間、古い記憶が起動し、思わず叫んだ。「ああ……思い出した。あの日、私は世界で一番すばらしい出来事を経験したんだ!」
 あの日、先生が「なんだ、やっとできたのか。お前はいつもクラスで最後だな」と言っていたなら、彼女の自己イメージは、否定的なものになっていただろう。同じ出来事であっても、経験したあと、どのようなコトバをかけるのか、それが重要な分かれ道となったのだ。
 パワーレスになったとき、人を力づけ、前進させる「エンパワメント8つの力」を取り上げてきた。これらの力は、システム理論のように、はじまりはどこであっても、ほかの力に波及し、互いに影響を及ぼし合いながら、拡大していくことになる。
 次回は、「自己イメージ」について、行動理論の「効果の法則」から詳しく考えてみよう。

参考書籍

ソーシャルワーカーが葛藤を乗り越える10のエッセンス

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