
受験勉強も大事ですが、資格はなりたい自分に近づくための手段。合格後の「仕事のイメージ」を抱くことも大事です。このコーナーでは、資格の世界を知るのに役立った本や映画などを合格者が紹介します。

緘黙(カンモク)
〜五百頭病院 特命ファイル〜
〜五百頭病院 特命ファイル〜
春日武彦=著
新潮文庫
ISBN:978-4-10-137086-6
価格:¥704(税込)
新潮文庫
ISBN:978-4-10-137086-6
価格:¥704(税込)
人の精神の面白さ、不気味さ
『緘黙』とは、発声の機能などに問題がなく、失語もないのにもかかわらず、ひたすら沈黙を続ける状態を言うそうです。物語は、15年も緘黙状態にある男・新実克己と、その治療にあたる精神科医たちを中心に進みます。「話せるのにずっと話さないって、一体どんな感じなんだろう」。想像しようとして、やっぱりうまくできないモヤモヤを抱えながら、最後まで一気に読んでしまいました。
登場する3人の精神科医は個性的で、新実に対する治療者としてのかかわり方も三者三様。外科手術などのようにわかりやすいハイライトがあるわけではありませんが、現役精神科医が描く患者や精神科病院の様子は非常にリアルです。登場する病院の入院患者の多くは統合失調症を患っているのですが、まだまだ偏見の多いこの疾患の患者の「日常」が、小説を通してさりげなく語られているようにも思いました。
これほど言葉に頼った世界のなか、「話さない」新実の存在は確かに想像しがたいものがありますが、介護の仕事でも、認知症がある高齢者や、うつ症状のある利用者など、さまざまな精神機能に障害をもった方とかかわります。そして、人の「精神」は「正常か異常か」「病気か健常か」といった物の見方では語り尽くせない、多面的でゆらぎや深さを抱えたものであることは、普段の何気ない場面で感じることがあります。
物語が終わった後のページには「いうまでもなく、本書はフィクションです」などと書かれた茶目っ気のある“著者ノート”があるのですが、人の精神の面白さや不可解さ、多様さを描いた点では、つくづくノンフィクションだなと思うのです。
新実の『緘黙』はどうなったのか――結末はぜひ本を読んで確かめてみてください。
(メソメソ)